朱(ねこねこソフト)レビュー
10/05/2004

 一言で表すなら、『全体的にクオリティが高いのに不満が残る作品』でしょうか。絵、塗り、物語、演出、音楽、どれを取っても素晴らしい出来といって良いと思います。しかしながら残念なことに、それでも残念ながら消化不良と言うしかありません。消化不良になった原因は主に二つ、細かいことが一つですね。
 まず大きく消化不良であった原因。それは主役の魅力不足です。全体を通してみれば8人主役がいるのですが、今ひとつ入り込めない人物が多かったですね。詳しくはネタバレになるので後述します。もう一つは語られる物語と語られない物語。この取捨選択が微妙だったかな、と。これまたネタバレですな。
 細かいこととしては、パッケージでは全くそれらしい表現もなく銀色の続編という位置づけであったことですね。知らなくても楽しめますが、知っていればもっと楽しめたはず。銀色をやっていない分、どこか物足りなく感じてしまいました。

 とはいえ素晴らしい出来なのもたしかです。テーマを表現する、と言うことに関してはよくできていたと思います。問題点もありましたが……。
 音楽は何名かの方が手がけていらっしゃるようですが、それでいて全体の統一感があります。そしてそのどれもが自己主張しすぎず物語を盛り上げてくれます。分散したこともあってかそれぞれの出来も秀逸。また、砂地の旅において歌のある曲を保ってくるのも良かったですね。
 演出も上手いです。ムービーをさりげなく混ぜ込んで表現される砂漠はどことなくリアリティを感じさせてくれるものでした。

 そんな朱ですが、現在投げ売られている状態です。十分に売れたもののそれ以上に作りすぎたんでしょうか? 某巨大掲示板と世間一般での評価に温度差がありますが、それも納得。分析すると高得点だけど、主観で見るとかなり厳しいんですな。というわけで2000円以下で売られていたりするので、そういった場合は買って損がないと思います。

戻る



 さて、以下はネタバレです。

 まずは全体の流れから。
 主人公となるペアは4組いるのですが、それぞれ理由や目的が全く違うのにパターンが似ているので、どこかマンネリした印象を受けました。そのペアに魅力を感じないときつい。第1章なんて、『宿屋のお姉さん可愛いなー』とかそんなことの方が気になってましたからねw
 しかし、徐々に謎が明らかになり始める第3章終盤から物語は急激に面白くなっていきます。徐々に明かされる謎と過去。悲劇。それまでは「かったるい」としか感じなかったんですが、急激に引き込まれました。平日の夜に何をやってるんだか(苦笑)
 そして終えると感動の……という感じでもないんですよね、これが。物語としては正しいんですが、淡々としているとしか言いようがないです。カダンに感情移入できれば別だったんでしょうけどね……。さらに、全てのきっかけは表されているものの、その後が全然語られないんですよね。必要ないから、と切ったのでしょうがそここそ知りたかった。銀色完全版に収録されたエピソードを流用しているというエピローグは今ひとつでしたし。締めくくるためなのでしょうが、最後を語るにふさわしい人物と最後を締めくくるにふさわしい人物は必ずしも一致しないのかなあと。で、消化不良になったわけです。

 それぞれのキャラについて書きますか。
・カダン
 第1章・朱・銀色の3つの章における主役であり、実質的に朱の主人公と言っても良いのですが……主人公としての魅力がないです。必要なものを全て兼ね備えているタイプなのに臆病としか言いようがありません。ある意味彼の成長物語としての側面もあったのでそれが駄目だとは言えませんが、最後まで好きになれませんでした。
・アラミス
 カダンの妹のような幼なじみのような存在の彼女ですが、最初から声ありにしなかったのはなぜなのか……。文字だけ読んでいるとたるく感じるんですが、声優さんが上手いのか声ありだとそう感じさせないんですよね。ちょっと損。臆病、と説明されていますがカダンほどではないと思います。銀色における心の変化は、彼女を魅力的なキャラへと成長させましたね。そうでないとさらに不満たらたらだったかも。
・ターサ
 あまり印象がない第2章の主人公。というかチュチュの印象が強すぎて……。
・チュチュ
 まっすぐでひたむきでいいんですが、どうも好きになれません。ごめんなさい、間延びした話し方とか、私には駄目だった模様です。第2章の印象自体あまりないようになってしまいましたし。
・ウェズ
 一番かっこいい主人公だったと思います。ぶっきらぼうで寡黙ながら、心の内に穏やかな優しさを持った人物。旅の中でのファウへの気遣い、生き方の模索……。ファウの癒しの力によって生き残ってしまった後、何を思って彼は生きてきたのでしょうか。死の間際に「後悔しかない」と語った彼ですが、それは絶望ではありませんでした。例えそれが哀しみからきたものであろうと、「俺の中にはファウしかない」と言い切って還ることを拒否した彼は、本当の男であったと思います。
・ファウ
 一番魅力的なヒロインでした。やはり第3章カップルが一番ですねえ。まっすぐでひたむきで、力のなさを嘆きながらも足掻き続ける彼女は惚れさせるものがありました。ただ、最後の選択は本当にそれで良かったのか個人的には疑問です。「ウェズさんを選びます」と言ったわけですが、その選択は本当にそうであったのかどうか。う〜ん……。消化不良の原因は、このカップルが旅の途上で倒れてしまったことに他ならないと思います。
・ルタ
 悪くありませんでしたね。なかなかにかっこよかったです。ラッテとの微妙なすれ違いが最終的な悲劇に結びついたような気がしてならないので、語るべきことは語れと言いたいですがw
・ラッテ
 こういうタイプ嫌いなはずなのに……徐々に現実の厳しさを知るにつれて魅力的になっていったように思います。ただ、悪い意味で彼女は純粋な子供だったんでしょうね。銀の糸を手に入れて以降の彼女は、ルタの怨念にでも取り憑かれたかのようです。実際、その通りなのかもしれません。ただ、銀色をやっていないので分からないですが、そうなってしまうものなのかもしれませんとだけ。あと、エピローグ……なんで600年とか経ったのに子供なままですか?

 う〜ん、書いていてやっぱり「第3章の二人が悲劇で終わったこと」が一番の消化不良で不満なんですね。力がなければどれだけ足掻いても悲劇を避けられないのかもしれない。力があっても変わらないかもしれない。でも、だからこそ彼らも幸せになって欲しかった。ファウは満足して死ねたかもしれませんが、ウェズはそうではないでしょう。もちろん、ファウが力を使わなければ立場が逆になっただけかもしれないですが。やっぱりどこか理不尽に感じてしまいます。

 ちなみにヒロインの好きな順位は、
ファウ>>>>>>ラッテ>>アラミス>>>>チュチュ
ですね。

 あーしかし、なんでこんな一年以上前の作品のレビューを今更書いているんでしょうw

戻る